10代の少年・少女の記憶力は、驚異的です。私も、小学生の頃、意味も分からず、「じゅげむじゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの…」と暗記して、学校で得意になっていました。そんなことを覚えても何の役にも立たなかったのですが、当時は、「遊び」で海馬などの記憶中枢を刺激し、快感を得ていたのだと思います。
最近では、史上最年少の14歳2か月でプロの将棋棋士になった藤井聡太4段の連勝が話題になっています。
しかし、50代でも、工夫をすることで、驚異的な記憶力を発揮した人がいます。
宮城県出身の原口證(あきら)氏は、30年余り勤務した会社を退職してから、円周率の暗記を始め、2004年、58歳の時、54,000桁を暗唱し、当時の世界記録を達成しました。
その後、自らの記録を更新し続け、2006年に、100,000桁の暗記を達成し、ギネス・ワールド・レコードに申請しました。(なぜか、この記録は、2017年現在、認定されていないようです。)
さて、「英語の記憶力」から逸脱しましたが、年を取っても語学の記憶力を増強することは可能、という話を紹介しましょう。
目次
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英語の記憶とは?
それでは、「英語の記憶」とは、何を意味するのでしょうか?
英文学者ではない人々にとって、英語の記憶とは、シェークスピアの作品を英語で暗唱するようなことではありません。
英語を「目的」ではなく、コミュニケーションの「手段」として活用したいと考えている人にとって、最も効率の良い記憶法とはどのようなものか、を以下述べます。
語学の学習は、小児の場合は別ですが、成人の場合、文法・語彙・用法の3要素が重要なことは言うまでもありません。
英語の場合も、任意の時に想起することができるような形で、この3要素を記憶しておく必要があります。
たとえ英語の辞書を丸暗記できたとしても、必要な場面で、的確な単語・フレーズ・構文が思い浮かばなければ、その記憶は無意味です。
すなわち、頭の中に、タンス(収納棚)を準備し、上記3要素をいつでも引き出せる形で、整然と収納しておかねばなりません。
雑然と記憶したのでは、後日活用しようとしても、思い出せないからです。
ポイントは、4つあります。ポイントは、4つあります。
- 文法・語彙・用法の正確な情報を、確実に記憶する(この段階では断片的でも可)。
- 単語・フレーズの相互関係、用法との結びつきなど、記憶を想起する際のキーとなる概念との結びつきを記憶する(1.の断片的知識を互いに関連付ける)。
- 上記2.で関連付けた概念を元にして、芋ずる式に文法・語彙・用法を想起する。
- 3要素に関する新たな知識・情報が得られた場合は、記憶の棚卸(再整理)を行います。
以下の章で、個別に検討していきます。
正確な記憶
記憶は、正確かつ確実でなければなりません。
どのようにして、正確に記憶するのが、もっとも効率的でしょうか?
一般に「目、口、耳、手(指)を使って覚えるのが良い」とされています。
目は、英文・英単語・フレーズを目で見て覚えることです。
発音が、文字の並び方によって一定のルールに従うことを知ると、目で見ただけで、音が聞こえてくるようになります。
たとえば、make, mate, cake, take, pike, site, dome, homeなど4文字で最後がEの単語は、第2文字の母音がその文字の発音(エイ、アイ、オウ)になります。
ただし、live, love, comeのように例外もあります。
Receiveとachieveの発音は、同じ「イー」でもスペルが異なります。
Receiveは、CをEでサンドイッチに挟んでいる形というように目で覚えます。
口は、発音して覚えることです。
単語を発音する以外に、単語のスペルを発音することで、単語の綴りを確実にします。
たとえば、knightは、ケイ・エヌ・アイ…と強く発音することで、nightと区別します。
耳は、聞いて覚えることです。
自分の発音だけでなく、ネイティブの発音を聞いて、スペルと意味を理解できるように、繰り返し聞くことが大切です。
人によって、発音には癖があります。
したがって、多くの人の発音を、インターネットやCDで聞くと良いでしょう。
最後は、手(指)です。これは、言うまでもなく、手で書いて覚えることです。
書くとき、紙やペンを準備する必要はありません。
空中で書けば良いのです。
目で、単語を見ながら、利き手で書く真似をするのです。
そうすることで、スペルを脳に刷り込むことができます。
特に、sとthの区別などは、発音と同時に、手で書くことで間違えなくなります。
さて、練習方法ですが、テキストの英文を目で見て、直ちに発音し、それを自分の耳で聞いて、同時に手で空中に書いて、テキストのスペルと一致していることを確認します。
次に、同じ文を、テキストを見ないで発音し、耳で聞いて、書くということを行い、最後にテキストを見て、スペルを確認します。
次に、CDなどが利用可能であれば、聞いてから、書き、テキストを見て、読むという練習をします。
最後は、紙に書いてからそれを声を出して読み、テキストと一致していることを確認します。
以上を整理すると、次のようになります。
- テキストを見る ➡ 声を出して読む ➡ 聞く ➡ 書く
- テキストを見ずに発声する ➡ 聞く ➡ 書く ➡ テキストを見る
- ネイティブの発声を聞く ➡ 書く ➡テキストを見る ➡ 読む
- 記憶に基づき書く ➡ テキストを見る ➡ 読む ➡ 聞く
このサイクルは、一見複雑そうですが、慣れると簡単です。
要は、身体の4つの器官を使って、英単語・フレーズ・英文の意味・発音・スペルを同時に、脳に確実に記憶させることです。
新出単語は、辞書などで意味を確認した後、直ちに上記4サイクルを実践し、自分の語彙(いわば、レパートリー)に加えましょう。
既に知っている単語でも、スペルが不確かな場合は、上記サイクルで確実にすることができます。
この方法の欠点は、声を出すため、周囲に人がいる場合、迷惑をかけることです。
しかし、単に、英語学習のCDやインターネット上の英語のニュースなどを聞き流す方法と比較して、確実に応用力がつきます。
英語の「聞き流し」で、英会話力が向上するという宣伝を目にしたことがあると思いますが、単に「聞く」という受動的勉強だけでは、英文を読み、自分の考えを正確に話し、さらに英文を書くという「総合力」を鍛えることはできません。
ヒアリングも、実は単語やフレーズの知識、文法の知識、用法の知識がなければ、向上しません。
私は、海外に滞在にしていた時、ネイティブの言うことが良く聞き取れているにも拘わらず、まともに自らの意思を言えない日本人に何人も出会いました。
何年間アメリカで暮らしても、英文の構成・文法・会話での用法などの正確な知識が臨機応変に活用できなければ、発言は幼稚で、英文もまともに書けない、Incompetent(無能者・不適格者)の烙印を押され、ネイティブから相手にされなくなります。
概念的結合
英単語やフレーズを関連する表現から、類推し、語彙を増やすことができます。
例えば、“distinction”(区別・差異)という単語は、“distinction between private and public matters”(公私の区別)などと使いますが、honor; fame; prominence(名誉・栄誉・優秀賞など)の意味もあります。
いずれも、良い意味で「区別された」状態から派生したと考えられます。
さらに、動詞は、distinguishで、形容詞は、distinguished; distinctive; distinct; distinguishable; distingueの5つがあります。
副詞は、distinctively(独特に)または、distinctly(明瞭に)です。語源は、ラテン語の“distinguo”(分割する)です。
類語では、“difference”(相違)があり、この語も動詞・形容詞などの関連語が多数あります。
「説明する」という意味の英語は、explain; tell; show; describeなど数多くあります。
それぞれの単語が、どのような場面で使われているか、注意してみると面白いです。
フレーズにも、複数の言い方があります。違いを検討してみて下さい。
「残念だ、悲しい」という表現
I am sorry to hear…; I was disappointed…; I am sad…; I feel sad…;
Too bad…; It’s a shame… などがよく使われます。
「思う、考える」という表現
I think…; I guess…; I’m afraid…; I feel…; I suppose…; I imagine…;
I consider…; I view…; I regard…; I conceive…; I plan…
これ以外にも使えそうです。
「祝う」表現
Congratulations on…; Happy…; Let’s celebrate… などがよく使われます。
電話での応対は、やや特殊な言い方をします。定型として覚える必要があります。
“Hello. May I speak to…” (もしもし、…はいらっしゃいますか?)
“Hello. This is…” (もしもし、…ですが、) “I am…”とは言いません。
“Just a moment, please.” (ちょっとお待ちを。) “wait”とは言いません。
“moment”の代わりに“minute; second”も使います。
“May I ask who’s calling?” (どなたですか?)“Who are you?”とは言いません。
“It’s a wrong number.” (間違い電話です。) “mistake”とは言いません。
“Can I leave a message?” (伝言をお願いできますか?)
“He is busy.” (彼は、話し中です。) “His line is busy.”の簡略形で、彼が忙しく働いているのではなく、彼の電話線が「通話中」という意味です。
“Let him call you back.” (彼に掛けなおさせます。) 「電話を掛けなおす」は、“call back”または“return back”と言います。
“recall”は、「思い出す、取り消す」という意味ですから使えません。
記憶の棚卸
“The child is father to the man.”(三つ子の魂百まで)と言いますが、若いころの記憶は、年を取っても忘れないものです。
しかし、間違っていたり、不確かなまま記憶していたりする可能性もあります。
「棚卸」が必要です。
棚卸の方法は簡単です。
高校の教科書を1冊買って、1ページ目から精読することです。
英会話やフレーズ集の本を併せ読むと良いです。
知らなかった情報に触れ、“You may be awakened to the truth”(目からうろこ)かもしれません。
世の中の変化に対応して、英語も進化しています。
少なくとも10年に1回程度は棚卸をしたいものです。
その結果、語彙・文・用法に新たな発見があると思います。
まとめ
外国語学習は、長期戦です。
特に、記憶力は年々減退していきますので、時間との勝負という面があります。
しかし、上述した方法を駆使して、日々努力すれば、脳内のネットワークも活性化し、忘れる以上の新規記憶の蓄積が得られるでしょう。
繰り返しも重要です。
同じ単語やフレーズ、文を何十回、何百回と繰り返し、見たり、聞いたり、しゃべったりすれば、記憶が強固になり、長期間忘れることはないでしょう。
これは、ある意味で退屈な(boring)作業です。そのため、リラックスして、ストレスにならない方法で続けないといけません。
語学以外でも同じですが、無理をすると長続きできないです。
決して無理をせず、楽に、楽しみながら継続することが大事です。
TOEICなどの検定試験で、目標を設定して、その目標点数に向かって努力する方法も有効ですが、目標を達成したと同時に、あるいは目標達成が無理と判明したとたんに、燃え尽きてしまって、そこで挫折することがあります。
語学で「中断」は、つきものです。中断したからと諦めてはいけません。何度でも再開すれば良いのです。
本稿で記載しませんでしたが、現場での実体験も記憶を強化するのに役立ちます。
その場合、成功体験より、失敗体験の方が有効です。
小さな失敗を数多く集めたタンス(収納庫)は、何ものにも代えがたい宝物になります。