ネタバレ含みますのでご注意ください。
私もかつてそうでしたが、黒澤監督の映画と聞くと、白黒で小難しいといったイメージを持っていた。
『七人の侍』同様、初めて『用心棒』を見た衝撃度は大きかった。
主演の三船敏郎のカッコよさはいうまでもなく、圧倒的な存在感は別格ですね。
脇役も仲代達矢を始めとした黒澤映画の常連の俳優さんが揃っていて安定感があります。
コミカルな場面も味があり、加藤大介演じる亥之吉は、憎めないキャラで好きですね。
黒澤映画を全く見たことのない人は、一度でいいから観ていただきたい。
黄金時代の日本映画の凄さを堪能できるはず。
そんな『用心棒』のあらすじと感想をご紹介します。
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『用心棒』あらすじ
予告動画はこちらになります。 ↓ ↓ ↓ ↓
一人の浪人(三船敏郎)がある宿場町にたどり着くところから始まる。
居酒屋の権爺(東野英治郎)から、ここでは賭場の元締め二人の抗争によって、村が廃れていることを聞き、浪人は腰を据えることに決める。
浪人はまず一方の親分である馬目の清兵衛に売り込み、丑寅の子分三人をたたき斬ってみせ、五十両の約束で用心棒におさまる。
名を聞かれ、表を眺めて桑畑三十郎と名乗る。
親分の女房・おりん(山田五十鈴)は抗争が終わったら、用心棒を始末すれば五十両は戻ると清兵衛にけしかけているところを盗み聞きした三十郎は訣別をする。
早くも清兵衛一家と丑寅一家が色めき立ってにらみ合っている。
三十郎の狙いは、まさにここで、互いにつぶし合って共倒れすることである。
折しも八州廻りが来て抗争はお預けとなる。
役人が滞在中は休戦状態の為、清兵衛と丑寅は大金を出して、三十郎を雇うために接触する。
十日後、隣の宿場町で町役人が殺されたことにより、八州廻りは去る。
丑寅の腹心の弟である卯之助(仲代達矢)が舞い戻ってきた。
しかもこの村ではただ一人拳銃を持っているのを見せびらかし、優勢に見えた。
丑寅は卯之助を仲介として手打ちの算段を始めいた。
またも、計画が崩れる三十郎。
権爺の居酒屋に来ていた二人が、町役人殺しの犯人であると同時に、それを仕組んだのが丑寅であることを知った三十郎は、清兵衛に売りつける。
清兵衛は手打ちを破談にするが、今度は卯之助が町役人を殺した二人を始末し、清兵衛の息子である与一郎を人質に取る。
しかし、清兵衛も丑寅の後見人である造り酒屋の徳右衛門(志村喬)が横恋慕するおぬい(司葉子)を人質にして、見せつける。
清兵衛と丑寅は互いの人質を交換する。
三十郎は丑寅の用心棒になると持ち掛けて、丑寅の見張りを倒し、人質のおぬいを逃がす。
その際、大勢で襲ったように見せかけ、おぬいに三十両を渡して、亭主と子供と一緒に逃がす。
清兵衛たちの仕業と思った丑寅は、後見人である多左衛門の土蔵が火をつけられて燃えだした。
それをうけて清兵衛も徳右衛門の酒蔵の樽が穴を開けられる。
抗争は激化する。
三十郎が権爺の居酒屋で飲んでいると、卯之助と亥之吉が凄んでくる。
逃げたおぬいの一家を探しているのだ。
おぬいの夫の小平が権爺のところに三十郎宛の渡した手紙が、卯之助に見つかり、捕らえられ、おぬいの居場所を吐かせるために拷問を受けるが三十郎は口を割らない。
三十郎は半殺しに会いながらも、見張りの隙をついて窮地を脱し、権爺のところに逃げ込む。
権爺と棺桶屋の助けで、棺桶に隠れて広場に運ばせ、辺りを見物する。
丑寅と清兵衛の騒然たる泥仕合が続いている。
丑寅は清兵衛の家を燃やし、逃げてくるものを容赦なく斬っていく。
逃げ出す女郎を追って出てきたおりんは、卯之助によって殺され、与一郎も撃たれる。
三十郎は権爺と何も知らぬ亥之吉によって、棺桶を墓場に運ばれる。
お堂で身を隠しながら静養し、元気を取り戻した三十郎に、棺桶屋から権爺が卯之助に捕まったと知らされる。
三十郎は棺桶屋が持ってきた刀を取って、宿場へと急ぐ。
丑寅一家は、三十郎が見ていっせいに刀を構える。
卯之助は拳銃を狙い定めるが、三十郎は近づき、体をひるがえし権爺から貰って隠し持っていた出刃を卯之助の腕に突き刺し、続けざまに丑寅一家を斬っていく。
卯之助は最後の力で撃とうとするが、力尽きて動かなくなる。
三十郎は、まだ、縄に縛られていた権爺をみると、縄を斬り落とす。
三十郎は平穏となった町を後にする。
『用心棒』感想①:三船敏郎
三船敏郎は男が憧れる存在。
彼のカッコ良さは、ホントに神憑り。
この『用心棒』は間違いなく、三船敏郎がいなければ、まず、成立することはなかったと感じる。
三十郎は、丑寅の子分にボコボコに殴られ、瞼も腫れ、鼻血垂らしながら、床下を這いつくばって逃げる。
こんな無様なシーンでも、口を割れば楽になるところ、哀れな家族を守るために頑なに口を閉じた結果が、その無様であることから、惚れ惚れするぐらい。
これを体現出来る役者が他にどれだけいるだろう。
そして言わずと知れた最後の決闘の場面。
あの表情、あの仕草。
三十郎の豪快な殺陣に酔いしれる。
私は『七人の侍』以来、とにかく三船敏郎に惚れっぱなし。
彼のような人こそが本当のスターなのだと、つくづく実感します。
出典:https://pc.video.dmkt-sp.jp/ti/10010414
『用心棒』感想②:脚本
多くの方が言うように、黒澤映画の面白さは、脚本がすばらしい事だと思う。
この『用心棒』は、黒澤作品のなかでも、一、二を争うほど娯楽性が高い。
何度見ても、見飽きない面白さになっていて、中毒性がある。
ストーリーは非常にシンプルで、単純といえば単純。
舞台も終始小さな宿場で、登場人物も少ない。
だからこそ、一人一人の人物設定の性格付けがしっかり出来ているので、魅力的に描かれている。
何よりも三十郎の圧倒的な強さが面白い。
瞬く間に五人も十人もたたき斬って見せる。
その目にも止まらぬ早業が、悪人たちとの対峙でより輝いている。
強い上に権謀術数にたけていて、いがみ合う両派の親分たちにケンカを焚きつけて自分は高見の見物をしたりする。
危うい場面でも、三十郎には余裕・風格すら感じられ、そこからくる茶目っ気や優しさが、ストーリーの程よい緩和になり、幅を持たせている。
彼を知るにつれ、権爺の態度が徐々に変わっていく姿が実に微笑ましく、人物描写も手を抜いてない。
単に三十郎を勧善懲悪のヒーローではなく、敵に情けをかけたりする人間味溢れる男の造形は見事。
『用心棒』は、全体的にコメディー要素が随所にちりばめられています。
周囲の愚かしい人間がムキになって、更に愚かなことをやらかすのも可笑しい。
冒頭の犬が人間の腕をくわえて走るだけでもこっけいだが、このおかしさが作品全体を一貫して貫いていて、三十郎を探す亥之吉が棺桶の中に入っているとは知らずにその棺桶を担いで運ぶおかしさにつながる過程は秀逸ですね。
『用心棒』感想③:リアルティー
あえて、チャンバラではなく、リアリティを重視した「殺陣」を黒澤監督と三船敏郎は作り出した。
よく見ると三十郎は、敵方を二回斬っている。
これは、黒澤監督と三船敏郎が「一回斬られたくらいじゃ死なないだろう」と、意見を交わして決めたとのこと。
ラストの仲代達矢との殺陣も緊迫感が滲み出て、名シーンです。
その後、続けざまに繰り広げる立ち回りは、様式美を見る感じ。
テレビの時代劇だと、間合いを取る時に、相手が近づいてくる場面を見てきたが、『用心棒』の殺陣はその逆で、三十郎が斬る相手目指して、とにかく走る。
その時の目力が、半端なく凄い!
逃げる奴まで出てくるのは、当然といえば当然かな。
『用心棒』感想④:『荒野の用心棒』との関連性
『用心棒』より先に、クリント・イーストウッド主演の『荒野の用心棒』を見ていた。
この黒澤明監督の『用心棒』が、傑作であると聞いていたので、拝見したところ、余りにもイーストウッドの『荒野の用心棒』にそっくりなので、セルジオ・レオーネ監督が盗んだんだと思いびっくりしました。
調べてみると、裁判になって和解したんですね。
『荒野の用心棒』は、『用心棒』でも使われた棺桶の中から争いを覗いていたりする等、アイディアをちゃっかり拝借している。
でも、見どころも満載で、イーストウッドがカッコイイので許せます。
『荒野の用心棒』がヒットしたことで、マカロニ・ウェスタンが流行り、イーストウッドもブレイクしてメジャーになった。
黒澤監督は、『用心棒』の原作は、ダシール・ハメットの『血の収穫』を参考にしたようなので、その小説も是非読んでみたい。
荒野の用心棒のクリントイーストウッドはマジでカッコよすぎて正直「結婚……」って頭を抱えるレベルなので時間あったら見てくれよな 翌日からしばらく無意味にエキゾチックな柄のショール?とか探してしまったからな pic.twitter.com/ML5MN0cy0b
— つむぎ (@SEEAIRRAH0011) 2017年12月18日
まとめ
冒頭のタイトルバックからして、書き殴ったような題字が堪らない。
オープニングからして、風を肩で切って歩く男を表現しているあたり、最高です。
完全にひきこまれます。
コミカルでサクサクと物語が進行する心地よさときたら、爽快!
『用心棒』の意外な見どころとして、東野英二郎と西村晃が同じ場面に出ているのは、ダブル黄門様ってことで堪らないですね。
この作品の続編にあたる『椿三十郎』は、頼りない若侍達を助けながら、藩のお家騒動を解決する三十郎の人間性がより一層強調されています。
二本合わせてみることをおススメします。