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石坂・金田一最高傑作『悪魔の手毬唄』ネタバレ感想

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ネタバレ含みますのでご注意ください。

金田一耕助シリーズの映画となると、やはり、インパクトが派手な『犬神家の一族』や『八つ墓村』になるけど、作品の完成度からいったら、断然この『悪魔の手毬唄』になります。

確かに最高傑作の呼声が高い。

まず、横溝正史の持つ世界観を市川崑監督が、見事に映像で表現し、本当に素晴らしいです。

横溝作品は、映像化されたものはすべて読みましたが、最も原作に忠実なのも好感が持てるところ。

古くからの因習、血縁による家の繋がり、経済的観点からくる見栄の張りあいなど、昭和の暗い部分が、この映画でストレートに表現されている。

殺人事件が話のメインとなることから、好みが分かれると思うけど、日本映画の価値を伝えるべき映画の一つであることは間違いないです。

そんな『悪魔の手毬唄』のあらすじと感想をご紹介します。

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『悪魔の手毬唄』あらすじ

予告動画はこちらになります。 ↓ ↓ ↓ ↓

物語は、昭和27年。

金田一耕助(石坂浩二)は、磯川警部(若山富三郎)から、迷宮入りの事件を改めて捜査するために、鬼首村に来た。

鬼首村は、古くから由良家と仁礼家が対立していたが、由良家は20年前に、恩田幾三と名乗る男に、モール造りを紹介され、事業を進めるが、これが詐欺だった。

詐欺師に騙されてから、由良家は精彩がなくなり、仁礼家の勢いが増し、現在に至っている。

その迷宮入りした事件とは、温泉旅館亀の湯の亭主・青池源次郎が、恩田の行動に不信感を持ったことから、恩田の潜伏先に詰め寄ったところ、逆に殺害されてしまう。

被害者は顔を焼かれており、判別がつかない。

磯川警部は、被害者と加害者が逆であると考えていることから、金田一に依頼した。

磯川警部は、亀の湯の未亡人・青池リカ(岸恵子)に惚れている。

金田一はここで、多々羅放菴(中村伸郎)という世捨て人と出会う。

放菴は村では、お庄屋と呼ばれている。

ある日、放菴は金田一に「五番目の妻だったおはんが戻ってくる」と話す。

金田一も仙人峠でおはんらしき老婆と会っていた。

金田一は事件の調査で、恩田と関係のあった別所春江(渡辺美佐子)に、逢引の場所を仲介していたのが放菴であったことを知る。

更に、おはんがすでに亡くなっていることを知って、愕然とする。

金田一は放菴の身を案じ家に駆けつけたが、姿が見えず、血痕が残されていた。

リカの息子・歌名雄(北公次)と由良家の泰子(高橋洋子)は恋人同士で結婚を望んでいた。

仁礼家の文子、歌名雄の妹・里子(永島暎子)、恩田と春江の間にできた千恵(仁科明子)は、奇しくも同い年だ。

その千恵が、人気歌手・大空ゆかりとなって、帰郷した。

千恵の歓迎会に出席するはずの泰子が行方不明になる。

翌朝、奏子は滝つぼで、口に漏斗(じょうご)をくわえさせられ、死体となって発見された。
枡(ます)と漏斗は、敵対する仁礼家のものだった。

仁礼家の嘉平(辰巳柳太郎)が、娘の文子と歌名雄を結婚させ、事業を継がせたいと考えていたことから、事件は婿争いによる仁礼の犯行と思われた。

金田一と磯川警部は、由良家で隠居の百合子(原ひさ子)から、村に伝わる手毬唄を聞かされ、犯行がその歌詞に沿って行われていることを知る。

泰子の母・敦子(草笛光子)から、仁礼家の文子は恩田との間に生まれた娘であることを告げられる。

次に文子が泰子の通夜の晩に行方不明になる。

仁礼の葡萄酒工場のタンクの中で死体となって発見される。

死体の頭上には、竿秤と造り物の小判が飾られていた。

金田一と磯川警部は、文子の母・咲枝からも恩田との間にできた娘だと告げられる。

すなわち、泰子、文子、千恵と里子、歌名雄の5人は腹違いの兄弟姉妹だったというわけです。

金田一は、こたつの上に置いてあったみかんが、鏡によって2つに見えたことから、恩田と源次郎が同一人物であることを突き止める。

金田一は、確証を得るために、源次郎が弁士をしていた神戸に向かいます。

金田一の不在中に、今度は青池里子が撲殺された。

恩田の娘が手毬唄の歌詞通りに犯行が行われていることから、千恵の警護を強化するが、千恵の代わりに、里子が殺害されてしまう。

その頃、磯川警部も20年前の事件について再度調査します。

春江から恩田の身体的特徴を聞きだし、両足の中指が長いことがわかり、事件の検案書を保持している鑑定医の権藤(大滝秀治)を訪ねて、遺体の写真を見せてもらう。

思っていた通り、遺体の足の中指は長かった。遺体は青柳源治郎ではなく恩田幾三であったのだ。

磯川は、敦子、咲枝、春江を権藤の家に呼び出し、そこに金田一が神戸から戻ってきた。

金田一は、弁士仲間から借りた青柳源治郎の顔が写っている写真を敦子、咲枝、春江に見せる。

すると、3人は驚愕し一同、恩田幾三と答えた。金田一の推測どおり、青柳源治郎と恩田は同一人物だった。

このことから、磯川は、一つの答えに辿りつく。

それは、泰子、文子、里子を殺害したのが、青池リカだということを知り落胆する。

一方、リカは家に千恵を呼び出し一連の事件の犯人は自分で、第3の殺人は、里子ではなく、千恵を狙ったものだったことを白状します。

里子は泰子の通夜の日に、おはんの姿をしたリカを偶然に目にしてしまったことから、リカが犯人であることに気づいてしまう。

それで、文子も殺害され、次に千恵が狙われると思った里子は、千恵の身代わとなって殺されたのです。

全ての原因は20年前、源次郎と恩田が同一人物だと知ったリカは嫉妬と憎悪にかられ夫を殺害、その様子を放庵に見られてしまう。

それからずっと放庵に強迫されてきたリカは、おはんに成りすまして放庵を毒殺。

リカは歌名雄が泰子と文子が腹違いの兄妹であるため、どんなことをしてでも、結婚を許す訳にはいかなかった。

恩田が同時期に産んだ娘たちは、皆美しい女性として成長している一方、自分の娘里子が赤あざを負い不憫であることから憎しみを抱き、殺害に至った。

金田一たちに自供したリカは、警察の隙を突いて逃走、底なし沼に行き、身を沈め自殺をはかった。

事件が解決した金田一は総社駅で、磯川に見送られて汽車に乗り込みます。

動き出した汽車から磯川に、「リカを愛していたのか」金田一が尋ねたところ、汽笛の音で聞き取れなかったのか、磯川は返答せず、汽車は遠ざかっていく。

金田一シリーズで舞台となる岡山県とは?

金田一シリーズで、度々舞台となる岡山県。

映画化された中でも、岡山県は、圧倒的に多い。

横溝正史が疎開していた経験から、作品に色濃く反映されている。

岡山県は、トータルイメージとして、『晴れの国』を使っているように、温暖で安定した気候に恵まれています。

産業としては、農業や製造業の割合が高いことから、本作の年代(昭和20年代)は、商売人に従事する人は少なかったと見受けられる。

県民性のイメージとして言われているのが、警戒心が強く、閉鎖的に感じること。

その一因は、商人が少ないことも理由かもしれないですね。

しかし、気心が知れて親しくなると、世話好きで情に熱いところがある。

横溝正史も随分お世話になったみたいですね。

岡山県を舞台にした設定でよく見られるのが、対立の構図。

『悪魔の手毬唄』でいうと、由良家と仁礼家。

岡山県は、山や川で分断され、盆地が多いことから、閉鎖的な環境が出来やすくなる。

そのような環境で、一つの勢力が拡大すれば、それに対する反勢力が自ずと現れる。

横溝正史は疎開先で得た知識を元に、岡山県特有の他の土地から来た人への警戒心、周囲と地理的に孤立された村、という条件を活かしている。

若山富三郎が主役を完全に食っている

若山富三郎演じる磯川警部の圧倒的な存在感が、加藤武だけでなく石坂浩二も完全に食ってしまった感がある。

なので、本編の主人公は、間違いなく磯川警部ですね。

磯川警部は、迷宮入りした事件を究明することが本当の目的ではなく、殺害された未亡人に惹かれていることからの行動。

この情感溢れる演技が、この作品の一番の見どころでもあります。

磯川警部は、若山富三郎のキャラクターをより引き立たすことが出来たからこそ、あの印象的なラストシーンが生まれたのだと思う。

不器用な男の純愛の織りなす悲劇。
せつな過ぎる。

 

不思議と格好よく見えるのは何故なんだろう?

今、こんな演技が出きる役者は皆無だろうなあ。
何度見ても涙がでる金田一映画は、これだけです。

岸恵子の存在感が大きいです

単なる謎解きのミステリーではなく、残酷で悲しい愛の物語。

それは、はかなく美しくもあります。

これを見事に表現できたのは間違いなく、岸恵子の存在が大きい。

上品で気高いイメージを持つ女優さんですが、この作品では鄙びた温泉旅館を切り盛りする女将さん。

質素な佇まいでも、上品で奥ゆかしい美しさが、少しも違和感がなく滲み出ています。

愛した男を憎み切れない女の悲しみ、血縁関係とは知らず恋人同士の息子に対する母親の苦悩など多様な顔を見せ、そのすべてを可憐に演じています。

磯川警部が、迷宮入りした事件に肩入れする気持ちがよくわかりますね。

『悪魔の手毬唄』の家系図を作成しました

『悪魔の手毬唄』は、横溝正史特有の血縁関係による殺人事件なので、家系図がないとわかりづらいので、作成しました。

これによって、作品の理解が深まります。

3人目の千恵を殺そうとした動機とは?

青池リカは源次郎と出会うまでは、神戸で三味線を使った演芸をしていました。

今でいうエンターテイナーです。

本編においても、気を紛らわすために三味線を弾くぐらいですから、人一倍、芸能人に対しての憧れは強かったと思う。

けれども、時代の変化についていけず、実家に戻って、源次郎の死後、温泉旅館を引継ぎ営んでいる。

かつて憧れていた華やな世界は諦めていた。

そこに、芸能人となって名声を上げた大空ゆかりこと別所千絵が凱旋します。

千恵はリカが殺した源次郎が不倫をしてできた子供です。過去に芸人であったリカにとって、千恵の存在は許せなかったのかもしれません。

泰子や文子の場合、恋愛関係にあった歌名雄とは、腹違いの異母兄妹にあたることから、阻止するのが目的の殺害だけど千恵の場合は、違います。

リカは里子を妊娠中に、背後から源次郎の頭をマキで投打し、勢いあまって源次郎はいろりの中に突っ伏してしまい、顔が判別が出来ない位に焼かれてしまいました。

その様子をリカが目にしたことによって、里子に痣が出来たと思い込んでいる。

放菴が金田一に話した「妊婦が火事を見ると、生まれてくる子供に痣が出来る」という迷信が鬼首村には古くから伝えられてきた。

里子に対する懺悔の気持ちから、特に芸能人となって、綺麗になった千恵に対しての、嫉妬と憎悪によるものだと思う。

里子はリカが殺した泰子と文子に対する償いから、馬鹿な考えを改めて欲しいと千恵に成りすまし身代わりになったのではないかと解釈しました。

まとめ

やっぱり、金田一耕助は石坂浩二だ!
本作を改めて鑑賞し、そう思いますね。

2時間23分の長尺ながら長さをまったく感じさせない。

個人的に原作の金田一の中で、最高傑作に入る『悪魔の手毬唄』。

本作も横溝作品特有の血縁関係がキーワードとなる為、より物語を楽しむ為にまず、小説を先に読まれることをお勧めします。

その際に、家系図を書いておいて、本編を見るとより作品の理解が深まります。

最高のスタッフで作り上げた作品を目の当たりにすると、薄っぺらい作品を見ていると改めて感慨深いもを感じます。

だからこそ、このような作品を鑑賞できることに至福の喜びを感じます。

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