ネタバレ含みますのでご注意ください。
非常にテンポが小気味よく、スピード感を感じさせる作品。
エピソードを通じて、各キャラクター設定が丁寧に描かれ、次第に本編の全容がわかるという展開は、イッキに見ることが出来る。
リアルティー重視という訳ではなく、また、荒唐無稽になることもなく、このバランス感覚が見事。
エンターテイメントとして、非常に完成度は高いです。
宮本信子と山崎努とのやり取りは絶妙で、みどころの一つであります。
日本映画に風穴を開けた、ぜひ、押さえておいて欲しい作品。
そんな『マルサの女』のあらすじと感想をご紹介します。
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『マルサの女』あらすじ
税務署の調査員・板倉亮子(宮本信子)は、管内における脱税に対する不正を日夜取り締まっている。
頭髪がお河童で、ソバカスの亮子は、美人とはいえないが、キャリア・ウーマンとしてはベテラン。
パチンコ屋の売上申告隠し・個人経営の店主が店の商品を使って、売上計上しないことを指摘するなど仕事を続け、その実績を買われ、東京国税局査察部の査察官(通称「マルサ」)に栄転となる。
ある日、権藤のかつての愛人から脱税に関する情報がマルサの電話に入る。
亮子は、ラブホテルなどを経営する実業家の権藤秀樹(山崎努)に対して、税務署の調査員時代から目をつけていた。
調査を重ねて、脱税の証拠をつかみ、本格的な調査が始まる。
マルサの女おもしろすぎる pic.twitter.com/ewt8xM3jcr
— むね土@転職完了。30代はほどほどに。 (@munetsuchi) 2017年12月22日
『マルサの女』感想①:権藤
とにかくこの『マルサの女』は、山崎努の怪演によるものが大きいですね。
予定調和されていない演技が、権藤の掴みどころのない人物を見事に表現している。
権藤が女性の前でくねくね踊るシーンがまさにそう。
単なる金の亡者とせず、多面性を描いています。
『マルサの女』が面白いのは、権藤をただの悪人としていないところ。
彼も普通の父親と同じく、子どもに対して愛情を持っている。
このあたり、役者が下手だとステレオタイプになってしまい設定が台無しになってしまうけど、山崎努の演技力があるからこそ、緊迫感があって、自然に見える
『マルサの女』感想②:権藤と亮子の関係
仕事しか生きがいを感じない権藤と亮子。
特に、権藤の哀しい性に切ない気持ちになる。
二人は、敵対した関係で出会うが、権藤の息子・太郎の理解者となったことから信頼を得る。
そのことがきっかけで、権藤は自分が本当に求めているものに気づく。
無我夢中で、お金を稼ぐことだけに人生を駆け抜けて来た。
そこで、自分の気持ちに正直になって、権藤が亮子に発した「あんた、俺とやり直すつもりはないか?」心情をすべてさらけだし、自分の血でハンカチに3億円が入っている金庫の暗唱番号を書いて亮子に渡す。
お金にかける執念を感じてしまう。
確かに権藤が行ってきた所業は最低だ。
何人もの女性を自分の道具のように手ひどく扱ってきた。
絶対に自分になびかないとわかっている女性を好きになってしまう。
彼の思いがわかってしまったことから何をやっても傷つけてしまう。
亮子も苦しかったと思う。
金に執着する男が最後に見せる心の揺らぎ、法のみが正義とばかりに不器用に生きる女が最後に見せる細やかな人情。
男と女の人間模様が素晴らしいです。
『マルサの女』感想③:設定
『マルサの女』は脱税という、地味だが身近な問題。
我々庶民の生活に直結している『税金』を選び、問題定義を織り交ぜながら、エンターテイメントとして成立させてしまうことに脱帽。
例えば、個人商店のやり取りが秀逸で、「自分の店の商品を食べた場合、それも税金に含まれる」という風にさらっと巧みに演出されていて、税金に疎い素人の私でもわかりやすい。
権藤の自宅への突入、ホテルの部屋を一部屋ごと確認するところ、愛人宅に訪ね、ドアを閉めようとした隙を突いて、安全靴を挟み込みドアチェーンを切るところなど、脱税の証拠を固めていく過程が丁寧に描かれているので、緊張感が高まる。
最後亮子が、権藤に語るシーンで「人にモノを残すなら、お金じゃなくて、あなたの強さを残すべき」は、『マルサの女』の核心を突くセリフです。
権藤のどん底から這い上がって、復活させる背中が何ともいえない演出ですね。
『マルサの女』感想④:時代背景
公開されたのが87年。
バブル全盛期の時代、お金に関する話題が毎日のように騒がれていた。
この時代を体現した人でないとわかないシーンがあり堪らないですね。
例えば、権藤の息子が、ファミコンで『スーパーマリオ』を遊んでいたり、マルサの人間が携帯電話を肩に下げている光景は時代を感じさせますね。
電信柱の街並や雑居ビルの景色が、都会の隅で、人間がゴミゴミ住んでいることをしっかり認識させてくれる。
昭和の世界観を堪能できるので、永久保存だと思う。
まとめ
黒澤監督の『天国と地獄』で、三船敏郎が演じたナショナルシューズの重役の名前が権藤。
権藤の息子を誘拐したつもりが、間違えて運転手の子供とは知らず、権藤を翻弄した誘拐犯が山崎努。
その山崎努が『マルサの女』で、権藤の役名で、金の亡者を演じている。
黒澤監督へのリスペクトなのか真意はわからないけど、伊丹監督らしいひねりですね。
身近な問題、ちょっとした出来事を映画にし、しかも感動させることができる。
一度聴いたら耳に残って忘れることが出来ないインパクト大のテーマ曲をバックに、お金に対する熾烈な攻防。
金というものは、人を獣にも、それ以下の存在にもしてしまうと痛烈に批判している。
伊丹監督のような視点で、映画を撮る監督は残念ながら、今の日本にはいないですね。
後、『マルサの女』のDVDは希少なので、興味がある人はこちらをご覧ください。