ネタバレ含みますのでご注意ください。
『たそがれ清兵衛』は、これまでの時代劇と一線を画す作品。
武士の生活感が、着物、髪型ひとつ取っても、徹底的に作りこまれたリアルさは、画面に引き込まれる。
閉鎖された空間で話が進んで、窮屈さを感じないのは真田広之や宮沢りえの演技も素晴しいけど、やっぱり山田監督の手腕なんだろうなあ。
全ての場面にちゃんとした意味があって、伏線も見事に回収している。
愛する人の為に、守り支えることはいつの時代でも尊く美しいものです。
心の温かさを感じさせる時代劇。
最後、涙が止まらなかった。
とにかく見て損することはありません。
そんな『たそがれ清兵衛』のあらすじと感想をご紹介します。
目次
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あらすじ
予告動画はこちらになります。 ↓ ↓ ↓ ↓
舞台は、幕末の庄内地方。
海坂藩に務める井口清兵衛(真田広之)は、50石の下級武士。
認知症の母親と娘が二人いる。
妻は労咳で死んだ。
清兵衛は仕事が終わると同僚の誘いも断り、真っすぐ自宅に戻り、家事と内職に努めていた。
そんな付き合いが悪い清兵衛を同僚たちは軽んじて「たそがれ清兵衛」と陰で呼ぶものもいた。
春になり、清兵衛は親友の飯沼倫之丞(吹越満)と再会する。
倫之丞は妹の朋江(宮沢りえ)が、酒癖が悪く、朋江に対して度々暴力を振るうことから、甲田豊太郎(大杉漣)と離縁したことを聞かされる。
朋江とは幼馴染で、清兵衛は子供の頃から秘めた想いを抱いていた。
その夜、甲田が離縁された腹いせに、朋江の家に押しかけてきた。
酒に酔っている甲田は暴れ出し、清兵衛の家に来た朋江を家まで送って、その場に居合わせた清兵衛が取り押さえ、果し合いをすることになる。
翌朝、河原で相対した甲田と清兵衛。
真剣を抜く甲田に対して、清兵衛は木刀で倒した。
朋江は、甲田を倒した御礼に清兵衛の家に通うようになり、娘たちの世話や家事を手伝う。
しばらくして、海坂藩の藩主が若くして亡くなり、後継者争いが始まった。
今後の情勢によっては、倫之丞の命も危ういことから、朋江を清兵衛の下へ嫁がせたいと申し出た。
朋江とは、身分が違うことから「嫁にするのは夢」と断る。
新しい世継ぎが決まり、反勢力にあたる藩士たちの排除がはじまった。
切腹を命じて不服として、討手を斬殺し、屋敷に立てこもっている男がいた。
その男は、一刀流の使い手・余吾善右衛門(田中泯)である。
新たな討手を求めていた海坂藩は、道場の師範を務めていた経験から清兵衛に任務を命じる。
藩命で人を斬らなければならなくなった清兵衛は、翌朝、朋江を自宅に呼ぶ。
斬りに行く前に髪を整え身支度の手伝いを頼んだ。
決闘を前に、清兵衛は朋江に対する想いを勇気振り絞って、打ち明ける。
朋江は、清兵衛との話が駄目とわかってから、別の縁談を決めてしまっていた。
余吾善右衛門との壮絶な戦いに勝った清兵衛は負傷した身体で自宅に戻る。
愛する清兵衛の無事を祈りつつ待ち続けた朋江。
ここで初めて、二人の想いは一つになった。
そんな朋江との幸せな暮らしは、わずか三年で終わってしまう。
真田広之(井口清兵衛役)の経歴 トム・クルーズも嫉妬した!?
真田広之さん只今出演中!【BSプレミアム】プレミアムシネマ「たそがれ清兵衛」<レターボックスサイズ>
過去の出演番組はこちら
「大河ドラマ 太平記」ほかhttps://t.co/hXvbb37VwO#真田広之※予定変更・地域で別番組の場合あり
— NHKアーカイブス (@nhk_archives) 2018年6月18日
1960年(昭和35年)10月12日生まれ(57歳)、東京都品川区出身。
5歳で劇団ひまわりに入り、1966年(昭和41年)『浪曲子守唄』でデビュー。
その時主演を務めた千葉真一との縁で、中学校在学中から千葉真一が主催するJAC(ジャパン・アクション・クラブ)にて、アクションを学びます。
JACは世界で活躍することができるアクションスターの養成を目的に立ち上げた事務所。
JAC入ったことによって、その後の俳優人生において大きなターニングポイントともいえます。
堀越高等学校に入学と同時に芸能活動を止まって、学業に専念しますが、1978年(昭和53年)の『柳生一族の陰謀』のオーディションに見事合格し、芸能活動を本格的に再開します。
『たそがれ清兵衛』においては、2003年の日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞を受賞。
それに伴い海外でも好評を得て、本家本元アメリカのアカデミー賞においても外国語映画賞にノミネートされ、真田広之の名は世界で知られるようになった。
その後、2003年、『ラストサムライ』への出演に選ばれる。
トム・クルーズが主演の『ラスト・サムライ』では、真田広之の他に渡辺謙、小雪といった日本人俳優が多数出演。
特に真田広之は、時代劇における殺陣、乗馬技術、所作といった演技指導をトム・クルーズにしました。
渡辺謙に比べ、、期待していたほど出番が多くは無かったですよね。
理由は、完成した作品を観たトム・クルーズが、真田広之の主役を食ってしまう程のカッコよさに嫉妬して、彼の出演シーンを大幅にカットしたとのこと。
まぁそれでも、真田広之の存在感は圧倒的に抜きん出ていましたけどね。
日本に物凄い役者がいるという噂はハリウッド関係者の間に広まり、それを足掛かりとして、ハリウッドに活動の軸を置いて、本格的に挑戦が始まります。
『ラッシュ・アワー3』、『LOSTシーズン6』、『47RONIN』などに出演し、着実にハリウッドにおいてレベルアップをさせています。
リアリティを追求した殺陣が凄い!!
本編では、2人の相手と対戦する場面があります。
1回目が棒きれ、そして2回目が小太刀。殺陣は体の向きや距離感がきちんとできていないとカッコ悪く思えてしまう。
さすが、千葉真一のJAC(ジャパンアクションクラブ)で鍛えられたこともあって一見の価値あり。
何と言っても田中泯との殺陣は、最高です。構え時の胸の張り具合、重心の掛け方、フェイントに唸ります。
田中泯の殺陣もスムーズで、力強さや凄まじさではなく無駄を省いた動きで緊迫感を感じさせる。
これまで観てきた時代劇における殺陣というと、「相手の様子を探りながら、一太刀浴びせ、再び間合いを取る」、これがよくある殺陣。
それはそれで美しさを魅せる事が目的だから、良いと思います。
しかし、『たそがれ清兵衛』においては、あえてその要素を排除して、リアリティに徹しました。
真田広之と田中泯の生々しい真剣勝負は、これまでの殺陣のイメージを大きく変えた。
それを可能にしたのも真田広之という一流の殺陣が出来る人間の存在が大きいですね。
清兵衛の素朴さと人柄に惹かれます
清兵衛の同僚たちは、彼の原動に対してバカにしていたが、剣の達人とわかると、周囲の対応も変わると期待していたが、最初から最後まで変わらない。
でも、そこがいいんですよね。
清兵衛は、家族の為に淡々と、与えられた義務を受け入れ、気負うことなく精一杯生きている。
そんな清兵衛の生き様に心を打たれた。
当たり前の事がどれだけ恵まれていて幸せか。
今の世の中を築いた先人達に感謝をし、その想いを胸に刻んで生きていこうと感じた。
『たそがれ清兵衛』
藤沢周平原作、山田洋次監督。平成時代劇の傑作。全編に溢れる確かな生活感と情感、仄かなユーモア、武士社会の閉塞感、そして何と言っても真田広之の殺陣。前半のVS大杉漣は世にも美しく、クライマックスのVS田中泯では鬼気迫る本物の殺し合いとなる。#1日1本オススメ映画 pic.twitter.com/t84LKLaOwn— Kino2 (@KinoTwo) 2017年5月15日
時代劇の山田監督もいいですね
山田監督は、型にはめて、映画を撮るイメージをずっと持っていた。
『男はつらいよ』シリーズは、毎回型にはめた予定調和が、安定感につながり、多くの人を魅了してきました。
この型を外さないということは、どれも作風が似通ってしまうということを意味しますから、『男はつらいよ』のシリーズが終了してからの山田映画に少なからず不満を持っていた。
しかし、この型に沿って作られた『たそがれ清兵衛』は、見事な様式美として表現されている。
清兵衛と朋江は互いに慕っていながらも進展しない男と女の心、妻に先立たれたことによって、より一層深まる親子の絆、理不尽な要求にも生きていくために唇を噛みしめる武士の潔さ。
昨今失われつつある日本人の持つ美しい型に彩られた物語に酔いしれた。
山田監督は、日本人の心を知り尽くした人だからこそできた映画です。
個人的には、「たそがれ清兵衛」における、真田広之演じる、主人公の清兵衛と命をかけた戦いを演じる、甲田豊太郎が印象深いな。時代劇なのでいつもおなじみのメガネは外し、暗闇の中、一人鬼気迫る眼差しで座っている姿から感じる狂気の雰囲気は、圧巻の一言だった。 pic.twitter.com/Z3iUedhqFZ
— SOW@6/1新刊八巻発売! (@sow_LIBRA11) 2018年2月21日
「誰のために生きる?」と考えさせられます
清兵衛は、江戸時代存在したと思われる下級武士。
剣の達人である事を公にせず、娘と老いた母を養う家族第一主義。
清兵衛の素朴さと人柄が感情移入できる。
時代劇において、主人公はどんなピンチになっても必ず敵を倒すという刷り込みがされているから安心して見ていられるけど、清兵衛の場合は、本当にこんな強そうな相手に勝つことが出来るのかという緊張感がある。
家族の為に生き抜くという強い思いが、鬼気迫るものがあり秀逸な演出に引き込まれる。
決闘の相手も、それ相応の重い人生を背負っている。
だから、悪人として描いていない。
決闘の場面で、敵に対して死んでほしくないと思ったことは初めて。
現代に生きる私たちに、「誰のために生きる?」と考えさせられます。
ラストシーン、清兵衛のその後の人生が語られる。
『男はつらいよ』の中で、寅さんが言っていたセリフに、「普通の生活を地道に生きることが尊い」そんなことを感じさせる素晴らしいラストだった。
「たそがれ清兵衛」鑑賞わず。藤沢周平原作で山田洋次監督。そのプレッシャーを14年前の若い真田広之と宮沢りえがさらりと演んじ、地味で切なさ漂うこの作品を藤沢ファンの私は好きだが…(略) 井上陽水のエンディングはサプライズ。★3つ半😬 pic.twitter.com/CafWgykkOV
— 銀時と下僕の日月抄 (@Beluga99) 2016年1月31日
海坂藩のモデルとなった庄内藩とは?
『たそがれ清兵衛』がモデルにした海坂藩(うなさかはん)は、庄内藩(現在の山形県鶴岡市)を地盤とした藩。
そこで、庄内藩についてご紹介します。
酒井忠篤(ただすみ)を藩主にした庄内藩は14万石の譜代大名で、同じ奥羽地方の会津藩と共に徳川家に忠誠を尽くす藩とされていました。
庄内藩は、江戸市中取締役に仕えるようになった時から、薩摩と反目する関係にあった。
西郷隆盛の命令を受け、薩摩は、江戸市中において暴動を起こします。
彼らは、幕府側を挑発し、仕掛けてくるのを誘っていたのでした。
ついに、庄内藩は慶応3年12月(1868年1月)、薩摩藩の江戸邸を焼き討ちにし、これが後の、戊辰戦争の口火を切るキッカケとなります。
慶応4年(1868年)からの戊辰戦争においては、幕府軍が敗れてしまった後も奥羽越列藩同盟の一員として新政府軍と戦います。
新政府軍による攻撃であっても討ち破り、連戦連勝したのです。
ところが、周りの幕府派の藩が相次いで降伏する情況を受け、ほぼ無敗の状態で降伏します。
また、庄内藩は、他の藩と比べて、藩主・家臣・領民の結束が揺るぎないことでも知られています。
これは本間光丘における藩政改革からきていている。
この藩政改革により、領民を大事にして守る政策が、考えとなり歴代藩主はこれを継続した。
領民も藩政改革に感謝の気持ちを持っていた。
そういった背景から、他の藩には決してない、領民の行動による三方所替え(大名3家の領地を互いに交換)の危機を回避したり、戊辰戦争後の藩主を戻すために献金をして力を尽くしたとされています。
大杉漣の指輪の意味とは?
清兵衛と朋江をめぐって果し合いをする夫の甲田豊太郎役を演じた大杉漣が、左手の中指に指輪をしていました。
結構アップで写っていたので、気付いた人も多いはず。
出典:https://www.justwatch.com/jp/映画/the-twilight-samurai
これは、山田監督が衣装室で、大杉漣の指輪に目が留まり、豊太郎は一目を引くことが好きな派手な男という設定だから粋な雰囲気を出そうとなり、あえて指輪をしたままの撮影となったそうです。
だから、確信犯なんですね。
まとめ
この映画は、設定を時代劇に置き換えているが、清兵衛たち下級武士は会社のサラリーマンとして捉えることが出来る。
上役の顔色を窺い、太鼓持ちする姿はサラリーマンそのもの。
私たちは、何のために働くのか。
生きていく中で、本当に大事なものは何かを教えてもらった気がする。
何度見てもこころが澄んできます。
エンディングに流れる岸恵子のナレーション、井上陽水の切ない音楽が、最高の余韻にもっていってくれます。
そして、見終わった後の儚さが堪らない。
久々にいい映画を見たという気分になれること間違いなし。
必見です。