ネタバレ含みますのでご注意ください。
この『麻雀放浪記』は、博打打ちという普段の生活において馴染みの薄い世界を描いた作品。
冒頭から、掘っ建て小屋にて、チンチロリンで身銭を稼ぎ、一喜一憂する光景に心打たれた。
当時流行っていた歌が流れ、雰囲気がいいです。
主人公の坊や哲は弱いけど、周りの登場人物が曲者揃いなので、博奕という裏世界を題材としているけど、感情移入しやすい。
麻雀が題材になっているけど、麻雀がわからなくても、人間ドラマが中心なので楽しめる。
そんな『麻雀放浪記』のあらすじと感想を紹介します。
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『麻雀放浪記』あらすじ
主人公の哲(真田広之)は、勤労労働が終わった後、學校に戻らずブラブラしていた。
ある日、金目当てに襲ってきた男は、軍事工場で一緒だった上州虎(名古屋章)だった。
虎に連れられて、賭場へやってきた哲は、博打打ちのドサ健(鹿賀丈史)にカモられる。
数日後、ドサ健は哲と一緒に、秘密カジノ『オックス・クラブ』へ乗り込んだ。
ドサ健は、自分が麻雀で勝つと、哲を残して帰ってしまい、所持金を持ち合わせていなく、負け金が払えないことから、アメリカ兵の一人に絞められてしまう。
気を失って倒れている哲を介抱してくれたのが、カジノのママ(加賀まりこ)である。
その夜、哲はママによって始めて女を知る。
翌日から、『オックス・クラブ』にて、ママによる麻雀修業が始まる。
次第に哲は、ママに対する想いが深まっていく。
ある日哲は、立ち寄った雀荘で、麻雀のプロに出会う。
その男は出目徳(高品格)といい、虎の師匠格の存在にあたる。
哲は出目徳から『二の二の天和』という不正行為を仕込まれ、ドサ健と対決することになる。
ドサ健は、情婦のまゆみ(大竹しのぶ)の家を雀荘にして、羽振りがいい。
哲は出目徳と組んだドサ健との対決は、出目徳側の勝利に終わる。
ドサ健は、まゆみの家の権利書までも賭け金とし、無一文になる。
再度、出目徳との対決を望むドサ健は、金を作る為にまゆみを女郎に売ることにした。
そこで、これまで勝負に立ち会ってきた女衒の達(加藤健一)が、肩代わりにまゆみを一日だけ預かり、ドサ健が戻ってくるのを待つことにした。
一方、『オックス・クラブ』に手入れが入り、カジノのママは姿を消してしまう。
再びドサ健と出目徳の対決が来た。
突然、ヤクを打っていたことから、出目徳が倒れてしまう。
『九連宝塔』という大きな手で上がった時だった。
出目徳の死体を家まで自転車タクシーで運び、土手の上から家の前へ転げ落とし、別れを告げる。
『麻雀放浪記』感想①:テーマ
この映画のテーマは、「弱肉強食」です。
日本が戦争に敗れ、アメリカが占領していた状況から、登場人物は全て弱者です。
哲が最初の賭場で、すぐ見破られるイカサマをしても、経験もなくカモにされてしまう。
進駐軍の日本人に脅されて、金を取られるなど、様々な場面で、弱者をフォーカスして印象付けている。
哲は世渡り上手だけど、一目置かれる強者にはなれないまま、物語は進んでいく。
そして、最初に哲をカモにしたドサ健が出目徳に全財産を賭けて挑むところは、博打打ちとしてのプライドです。
そのプライドは、そのまま弱者のプライドとなってつながる。
ここから、群像劇として展開。
弱者の中においても、勝つものと負けるものがいる。
卓を囲んだ段階で、対等の戦いが待っている。
麻雀で起こる一瞬の煌めきを表現するために、執拗に弱者を描いている。
麻雀のやり取りは、自分自身のプライドを賭けた戦いになっていて、鬼気迫るものがある。
賭け事は、生きていくうえで、何ひとつ生産性がないが、そこに人生を捧げる男たちの儚い美しさがあります。
「博打場?!いったい何をやってたのだ!」
「丁半」
「そんなのつまらねーぞ。チンチロリンにしろ。あれは面白いぞ。阿佐田哲也の『麻雀放浪記』『ドサ健ばくち地獄』を読んでみろよ。テホンビキも面白いぞ、日本の博打の王様だ」 #おんな城主直虎 pic.twitter.com/Bf89QlfxZj— ヘルベルト・フォン・スダヤン (ФωФ) (@suda_yan) 2017年6月4日
『麻雀放浪記』感想②:ストーリー
現代の日本において、『麻雀放浪記』に登場するドサ健、出目徳、女衒の達、上州の虎は、どれも一筋縄ではいかない曲者揃いの人ばかり。
戦後の日本で生きていく手段のひとつとして選んだ博奕。
この人たちを決して美化せず真摯に描き、淡々とした人間模様と博打を交互に絡めることで、男の弱さと女の強さが表現されている。
腕を磨けば磨くほど、人生が破滅的になる皮肉な話だけど、博奕打ちという勝負事の世界で、必死に生きる登場人物たちの命を賭けた生き様は、最低な生活であるけど、共感が持てた。
大竹しのぶ、一般的には映画【青春の門】【あゝ野麦峠】かドラマ【男女七人夏物語】なのでしょうけれど、私の中では1984年の映画【麻雀放浪記】(原作:阿佐田哲也)で、鹿賀丈史が演じるドサ健の彼女・まゆみ役でした。
あと大竹しのぶといえば晩年の忌野清志郎と懇意 pic.twitter.com/xdkmb8Xg9K— ヘルベルト・フォン・スダヤン (ФωФ) (@suda_yan) 2017年8月9日
『麻雀放浪記』感想③:白黒映画
戦後混乱期の様子をあえて白黒映像にすることで、余計リアルティーを感じる。
白黒映画に対する抵抗感を持つ人は多いけど、陰影のコントラストは、カラーでは表現できない白黒映画独自の表現方法で、最初から引き込まれてしまう。
見事な映像ですね。
あえて、白黒にした和田誠監督の粋が、随所に光っています。
まるで、黒澤映画を彷彿する作風は、堪らないですね。
『麻雀放浪記』感想④:脇役陣
脇役の俳優陣のいぶし銀の演技がいいですね。
被害者ぶっていながらしぶとさを秘めている大竹しのぶ。
情にもろく、勝負どころでいつも弱い名古屋章。
小粋でクールな加藤健一。
そうそうたる顔ぶれの中で、高品格と鹿賀丈史の存在が大きい。
数多くの作品で脇役を演じてきた総決算ともいうべき風格を示した高品格は、印象深いセリフまわしが素晴らしく光芒を放っている。
ドサ健を演じた鹿賀丈史は、一匹狼という形容がふさわしく、肩で風を切る歩き方がカッコイイ。
ドサ健は、名セリフが多い。
上州虎にチンピラ呼ばわりされて、ドスの効いた言葉で返したセリフもシビレたが、何と言っても最高なのが、小料理屋で啖呵をきったセリフ。
「あいつと死んだおふくろと、この二人には、迷惑かけたってかまわねんだ」。
ドサ健のキャラを表していて最高です。
出目徳
「こりゃおかしい、わっはっは、皆、見てくれ俺の手を。おかしくて死にそうだよ」
「俺ァ、皆みてえに巧くねえから、はなにあがってる手でもなきゃァ勝てねえよ」#浜松市 #浜松市東区 #麻雀王国 #雀サクッ #学生麻雀 #セット麻雀 #麻雀放浪記 #静大 #ドサ健 pic.twitter.com/q6NOtU3o2F— セット専門麻雀店「にじの家」 (@nijinoie) 2017年8月8日
まとめ
敗戦直後の混乱期をバイタリティーに生き抜く男たちが、麻雀という博打を通し、それぞれの生き様をリアルに描いている。
「全米が泣いた。」みたいなお涙頂戴の映画じゃないけど、間違いなく、日本映画における傑作のひとつです。
まだ、未見の人は、男の生き様を堪能できる作品なので、一人で見ることをおススメします。